ヒラムシの学名について、11月7日に書いたことについて沖縄に在住の方と、愛媛大学の方からご意見をいただきました。
おふたかたともほぼ同じ意見で、Pseudoceros を英語読みの「シュードケロス」と読むべきだと中野は言うが、ラテン語読みをして「プセウドケロス」と読むべき and/or 読んでも間違いではないはずで、プセウド-を間違いと決めつけるのはいかがなものか、というのが大意でした。
やっと時間ができた(正確には、次の仕事に足を踏み入れたくない)ので、あれから1ヶ月近くたってしまいましたが、お返事させていただきます。
おふたかたのうち学生のほうの方が、平嶋義宏先生の記述を引き合いに出されていましたが、私も平嶋先生の著作のどちらかに「学名は基本的にラテン語読みをするものだ、最近は英語読みをする研究者が増えて嘆かわしい」というような内容のことが書かれてあったことを覚えています。
その上で、敢えて「プセウド」ではなく「シュード」と読むべき、と書きました。
その理由はこれから書きますが、その前に先ずラテン語を日本語に置き換えて、言語学におけるシニフィエ、シニフィアンの関係を考えてみてください。
その場に居る皆が「apple」という言葉で共通認識を得ている<木になる赤い果実>を、日本人だけが「いやあればアップルではなくてリンゴというのだ」と主張しても、日本人以外の誰もが「What is Ringo? This red fruit is "apple" !」ということでしょう。
アオウミウシ属はHypselodoris といいますよね。これを私は日本人と話すときは「ヒプセロドリス」と読みますが、外国人研究者や外国人ダイバーと話す時は「ハイプセロドーリス」と発音します。「キエルケ」は「シエルセ」です。Gymnodoris は「ジムノドリス」です。「ギュムノドリス」なんて一度も言ったことがない。カッコつけているわけじゃありません。そう発音しないと通じないからです。
研究を進めるには世界中の研究者と共通認識を持つ必要があり、共通認識を持つためには共通言語を用いる必要があります。その言語が英語です。
ちゃんとした論文は英語で書きますし、国際学会ではどこの国の人であれ発表は英語で行います。
一方、ラテン語はご存知の通り既に死んだ言語で、使っている民族は今はいません。
読み方に原則はあるけれど、それが本当に正しいかどうかも、実のところはわかっていません。
ゆえに「学名はラテン語読み」はあくまでも原則でしかなく、現実的な対応としては英語読みが妥当だと私は思います。
具体的に書くと、Pseudoceros をプセウドケロスと表記しても決して間違いではありません。「間違い」と書いてしまったのは私の勇み足であることは認めます。
しかし科学の世界に身を置く者(未だアホ学生の域を出ませんが)としては、Pseudo- はシュード- と読むべきだし表記すべきだというのが私の考えです。実際に大学や博物館など研究の現場では、学名はほぼ英語読みされているように思えます。
もっと言うと、プセウドケロスかシュードセロスかを議論すること自体無意味で、Pseudoceros とそのまま書いておけばいいじゃないか、私は研究者と話がしたいのでシュードと読むけど、読みたくない人はプセウドでも何でも好きに読めばいい。読めない人は勉強してほしい。
一方、編集者兼ライターとしては「読者にそんな不親切なことではいかん」と思います。そこで親切心を発揮すると……、やはり推奨するのは英語読みです。
名前など所詮は記号、符丁に過ぎません。通じなければ意味をなさない。
誰にでも通じるように使うべきです。
絶対にガイジンとは潜らないし話もしない、というならラテン語読みと和名を覚えておけばいいのかもしれないけど。
よその国の人には英語読み、日本人どうしで話す時はラテン語読みか和名、という具合に呼び方をみっつ覚えて使い分けたいと思うなら、それもよし。
以上でござる。まー要するに私はリアリストなんです。
さて、なんか食ってから、大学に行くべ。