ごく最近、Johnson&Gosliner がイロウミウシ科について、おやまあ。という内容の論文を発表した。スペインとアメリカの両方から「これどう思う?」と送られてきた、それだけ研究者の間でも話題となっている論文である。
(※この論文は誰でも入手することができます。
ここをクリックしてくださいまし)。
この論文の内容について、ウミウシオタクの某氏があれこれとブログに書いているらしい。
本日(既に昨日)は、そのブログに書かれた内容をご自分のネット図鑑に反映させるべきかどうか、或る方から相談を受けた。
そこで私見を述べさせていただく。
以下は相談者さんへのお返事メールに一部加筆したものです。
こうした大きな変更を伴う研究の場合、この仮説を受け入れるかどうか、そう簡単に結論は出ません。
これから研究者の間で検証が始まる段階です。
形態による分類は賞味期限が数10年あるので、今まで大きな問題はなかったのですが。
分子系統解析による分類の場合は新たな仮説が入れ替わり立ち替わり登場するので、賞味期限が短いです。うちの先生は「1年単位で変わることもある」と言っています。
受け入れるかどうか検証している間に別の説が浮上することもあります。
今は科より上位の分類群でも、さまざまな学説があります。
後から後から出てくるそれらの学説を、ご自分のネット図鑑に全部反映する必要はない(できない)と思います。誰の学説(図鑑でOK)を参考にしたかを明記しておけば十分。ただし小野(2004) や中野(2004) は流石に古すぎてダメなので、Gosliner
et al. (2008) を参考にしたとしておけば問題ないと思います。世界中で今、この図鑑が一番正確です。それでも既に古くなった箇所もあるし、ミススペルなどもありますが。
そしてもちろん、この図鑑を支持しない研究者がいることも、忘れてはいけませんが。
ですので当然、出たばかりの論文に書いてあることをいちいち鵜呑みにする必要はありません。
ガイドさんを含む一般のダイバー諸氏は、それらの学説を自分で検証する術がないのですから。出た論文出た論文、いちいち信じていては振り回されるだけです。
その説がもっと浸透してから従うのでも構いませんし、さらに言えば、学名なんかコロコロ変わるんだし、一般のダイバー諸氏は和名だけ気にしていれば必要かつ十分じゃないかな、とも思います。
某氏がブログに書いているイロウミウシ科云々は、研究者ではなくオタクが、論文ではなくただのブログに書いているだけのことです。反映もなにも・・・
「こんな新情報を自分は知っている」と自慢したい、オタク心理のなせる技だとあたたかく受け止めてあげればいいのではないでしょうか。
それにしても、この某氏。専門家がこれからその学説の検証に入ろうって時に、検証もせず(できず)に「支持します」って公言しているのも同然なわけですよね。
ウミウシ学者の故馬場菊太郎博士には信者がいて、馬場先生の言うことは何でも絶対、馬場先生の学説に異を唱える輩は許せない、という態度をとっておりました。
某氏の行動は馬場信者と同じ、まるでGosliner 信者です。
科学じゃなくて宗教。
そのGosliner さんですが、最近とみに分子偏重、形態や生態を無視した分類を行うので、私は危うさを感じています。
Gosliner さんは個人的にはとってもいい人だと思いますが、彼を中心としたアメリカ人研究者の暴走を止められるウミウシ研究者が非常に少ないことは大問題だと思います。マイノリティの意見はたとえ正しくても無視されるものですから。
彼らアメリカ人は、日本にいるウミウシはフィリピンにいるウミウシと同じだと思っているようです。日本固有種に対する認識なんか論文を読んでいて呆れますよ。「見たことはないが、ヤマトメリベは恐らくムカデメリベと同種だろう」とか平気で論文に書いちゃうんですから。科学者ならば、見たことがないものには言及すべきではないのに。
Gosliner さんの論文にはミスが多いですしね。仕事、適当だなあ、と感じます。彼らのやる分子系統解析はコンタミがめちゃ多そうで、今ひとつ信用できません。
そこで日本のウミウシの分類は日本人でやろうと日本人研究者の間で話し合っているのですが(後略)
(以下加筆)
これからウミウシの分類を専門にやろうという日本人の学生・研究者は、私の知る限り(私を除いて)今のところ2人しかいない。シロウトばかり多くて研究者が少なすぎる。
でもウミウシの分子を解析できる人は何人もいるから、なんとかなるかな。
なんとかするしかないもんね!
あたしゃアメリカ人のドレイにはなりたかないもんね!