「このウミウシはですね、『沖縄(本州)のウミウシ』には稀種って書いてあるけど、ここでは普通種なんですよ」と、なにやら自慢げに話す人(ダイバー、ガイド)がいる。それを聞くたびに私は違和感を覚える。
そこで
Chelidonura inornata、オハグロツバメガイ。
『沖縄のウミウシ』には、場所を問わないが稀種。とある。しかし万座の潮下帯ではごくごく普通種。チドリより50-100cm深い場所にいる。
オハグロツバメガイは慶良間では稀種かもしれないが、万座では普通種である。
これは、万座の環境が、慶良間よりもオハグロツバメガイに適していた、ということ。ただそれだけの話だ。
慶良間より万座が偉いとか『稀種』と書いた図鑑が間違っているとか、そういうことではないのだがね。
稀種と書いてある種を見つけて自慢したくなるのはよくあることだが、逆に稀種と書いてある種がたくさんいても自慢したくなる。
そんな具合に動く、ヒトという動物の気持ちはよくわかる。でも、普通種として認識されてしまうと、そのとたんにその生き物は「駄***」とか「雑魚」とか言われてぞんざいに扱われる。
なんだか不憫である。
駄をバカにする人には「そういうアナタは<駄ニンゲン>ではないのかね?」と、イヤミのひとつも言いたくなる。
おっと、横道にそれました。
万座の潮下帯は礁原で、見るからに生物が多そうなステキな環境。うねっていなければ何時間でも潜っていたくなるような。
オハグロツバメガイは潮下帯の普通種で、ダイバー水深では稀種ってことなのかもしれない。
そういえば
Aeolidiopsis ransoni も、礁原では普通種だ。
ダイバー水深の観察だけで、わかった気持ちになってはいけない。ということですね。
さらに、北上(南下)したら、出現頻度はまた違ってくるかもしれない。
今後の図鑑制作では「稀種」という言葉は極力使わないようにしよう。