今回のゼミでは『Cnidosac morphology in dendronotacean and aeolidacean nudibranch molluscs: from expulsion of nematocysts to use in defense?』という論文の紹介をした。
スギノハウミウシ亜目とミノウミウシ亜目の種の、刺胞嚢の組織学的研究。
ミノウミウシ亜目の種と同様、スギノハウミウシ亜目の種も刺胞動物を餌になさいますが、刺胞を刺胞嚢に貯め込むのはある属1属だけなんだよ。じゃあ、貯め込まないDoto とかの場合、食った刺胞はどこでどうなっちゃうの? 逆に、貯め込むやつの刺胞嚢とミノウミウシ類の刺胞嚢はどう違うの? という内容。
私自身は切片を切ったことはない(包埋切片の作り方自体は授業で習った)ので、実験方法を訳すのは授業ノートを見ながら思いだしながら調べながらで、やや大変だった。
この論文を書いたドイツ人研究チームにはウミウシの専門家はいないようで、たとえば<cryptic species> の意味を「隠蔽種」ではなく「環境(この場合は餌)に擬態している動物」の意味で使うなど初歩的な間違いが何ヶ所かあったし、必要な写真を掲載していない、など論文として不十分な点もいくつかあった。
それはさておき、ディスカッションで出てくる、スギノハウミウシ亜目とミノウミウシ亜目の系統学的関係性の話はおもしろかった。
もっと研究が進んでもよさそうなものだけど、いかんせん採集できる個体数が少ないからなあ。
個体数が少ない、というだけではなくて、採集に協力的なダイバーが少ない。というのも生物としてのウミウシの研究が進まない理由のひとつだろうね。
普通のダイバーの方々は「これなんて名前のウミウシ?」ってことばかり気にされて、名前がつけばもうそれだけで満足されるからなあ。それも和名で満足されるんだもんな。大事なのは学名ですよ。属以上の高次分類群を知ることが大事なの。なぜこの種はこの属で、この属はなぜこの科なのか。そこを見ていくと、その種がどういう生き物なのか、ということがわかってくる。と、思う。
学名をつけるには採集して標本を作らないといけない。が、採集・標本という言葉を聞いただけで「かわいそー!」と思考停止に陥るヒトビトが多い。「動物を守ろう!」「生物多様性が大事だ!」と言いたいのなら、生物はどれほど多様なのかを知らないといけんでしょう。
この「かわいい~!」と「かわいそー!」が頭の中にセットで入っている人たち、つまり何も考えず情緒だけで生きている方々。
どうにかならんものか。
最近は有難いことに、日本各地に少しずつですが協力者が増えてきましたが。
まあね、「かわいそう」と思うのも「学名をつけたい」と思うのも、どちらも人間のエゴですけどね。そもそも「種」なんてもの自体、人間の概念でしかないわけですから。
とにかくこれで一段落だ。明日からは、今年度前期中に絶対に成し遂げると決めている仕事。6月末までに完遂するぜよ。
今日はもう寝る。