正午、半蔵門に出かけ、フリーランスになる前に勤めていた会社の五十嵐社長に2年ぶりにお目にかかる。力(つとむ)さんにも20年ぶりくらいに会えて感激のあまり涙ぐむ。五十嵐社長は私を一人前の物書きに育ててくれた大恩人だが、当時印刷会社の社長だった力さんにもいろいろと教えていただいた。独立した時にも名刺などを印刷してくれたことを思いだし、多くの人に助けられて生きてきたんだなあ、などと改めて思う。
3人で昼からビヤホールに行き生ビールを飲んで、これまでとこれからをかいつまんで報告する。
昔からイケメンだった力さんが格好いいロマンスグレーになっていて、飲んでいる間もついじっと見てしまう。
それにしても昼の酒は効く。ジョッキ1杯でいい気分である。口もなめらかになる。
「そんでどうすんだ理枝ちゃんは、博士号をとった後」
「はあ、どうすんでしょうね。とにかく東京に戻りはしますし研究は続けたいですが、生活が」
「生活か。理枝ちゃん今何がやれるんだ。研究では食えないのか」
「食えません。やっぱり文章を書くことでしか」
「そうか。まあ理枝ちゃんは、やっぱり文章だな。でも広告屋はもうだめだ。広告文案ではもう食えん。他の文章で食わないといかんな。そうだなあ、なんか考えてやるよ」
退職して20年たってなお、酒の席とはいえ当時の社長がこう言ってくれる。なんと有難いことだろう。
博士論文を書き終えたらまた連絡すると約束して、散会。
社長・力さんと別れた後、神保町でコーヒーを飲んで酔いを覚ましてから移動。
午後3時半、葛西臨海水族園に。
黒潮生物研究所の今原さんに誘っていただき、園長の西さんをはじめとした水族園のスタッフの皆さんと飲むのだ。つまり今日は宴会ダブルヘッダー。飲む前にバックヤードを見せてもらえることになり、早めの待ち合わせとなったのだった。
今原さんと私の他には、東京海洋大学でポスドクをしている若林香織博士も一緒である。若林博士はヒトデの発生を研究して博士号を取得された方だが、博士には見えないかわいさである。話してもとても感じがよく、学生にも人気があるだろうなーなどと思ったりしているうちに水族園スタッフの河原さんが水族園入口に我々を迎えにきてくださる。
挨拶もそこそこに、バックヤードに連れて行っていただく。
バックヤード見学は展示水槽を見るのとは違ったおもしろさがある。多くの動物を見せていただいたが、北極のウミウシを見られたことが私には望外の喜びであった。
そのうち西さんが打ち合わせから戻ってこられて、閉館後の展示水槽を2時間かけて案内してくださる。
さらに東京湾のROV映像を見せていただく。詳しくは書けないが、こちらも興味深い映像であった。
その後JRの駅前で西さん、副園長の坂本さん、河原さん、調査係長の荒井さん、解説スタッフの宮崎さんらと飲む。話をするうち座間味のダイビングサービス<オイコス>の故高瀬進さん、高知の黒潮実感センターの神田くん、鹿児島の出羽くん、三崎のヒサさん、東海大学の赤川先生など、知り合いの名前がどんどん出てきて業界? の狭さを改めて実感する。狭すぎて怖いくらいだ。悪い噂はあっという間に広まるに違いない。これからは飲んで記憶をなくして大暴れ、などしないようにしなくては!
展示する生物のうち、和名のないものについてはどう扱うか、という話をしているうちに、きれいな色合いのウミウシの飼育の話になる。
「どうやったら飼えるでしょうね?」
「やっぱり餌が必要ですよね。カイメンは維持できますか」
「だめなんですよカイメンは。すぐに採集できるならいいですが」
「育てられればいいんですよね」
「育たなくても、維持できればいいんです」
「ではヒラミルとかモツレミルとかはどうでしょう。やつらにはヒラミルミドリガイがついていますよ。盗葉緑体をするやつらは飼育しやすいはずです、ただし地味ですけど」
「維持はできますが地味ですねえ。でも派手なのはカイメンにつくんですよね」
「ホヤとかヒドロ虫にもつきます」
「ヒドロ虫ならいけそうですよ。そうだ、ムカデミノウミウシなら飼えそうだな。あれはきれいだし」
などと延々と。
一昨日の三崎での飲み会でも油壺マリンパークの岩瀬さんの話は展示と飼育の話に傾きがちだった。飼育係さんの話は研究者ともダイバーとも視点が違い、聞いていておもしろく興味は尽きない。
しかし飲んだ店が9時半で閉店になってしまったので、ほろ酔い程度で解散となる。
今後葛西ではウミウシ展示計画委員会を作って、私にポストをくださるそうだ。もちろん酒の上の冗談ではあるが、そういう話をしてくださる皆さんに感謝。
午後11時に帰宅。帰宅するとダンナも飲み会に出かけて留守。ダンナは零時に帰宅。アイスクリームとポカリスエットを摂取して即寝。
楽しい1日だった。皆さんどうもありがとう!